HOME MusicInterview天平&真央樹 1stアルバム『kaleidoscope』インタビュー

天平&真央樹 1stアルバム『kaleidoscope』インタビュー

すべての両指が踊っているような華麗な鍵盤さばきで魅せる、大迫力のピアノソロ。幾重にも重なった音のレイヤーの中で、心の琴線に触れるメロディーが流れゆく。コンポーザーピアニストの中村天平が作る楽曲は、クラシックをベースにしながらも、バンドサウンドに引けを取らない疾走感を併せ持つ。その突出したオリジナリティから名付けられた通り名は“クラシック界の異端児”だ。
そんな彼が活動10周年を目前に、新たなプロジェクト“天平&真央樹”を始動させた。高度なテクニックとハイセンスな作曲能力で注目を集める新進気鋭のドラマー、山本真央樹とのピアノ&ドラムデュオである。7月19日に発売されたデビューアルバム『kaleidoscope』には、新たなアレンジを施された中村天平の代表曲や、リリースのために書き下ろされた新曲が収録されている。今回は中村天平へのインタビューを行い、デュオで目指した新しい音楽表現や収録楽曲の制作秘話、そしてクラシック音楽の発展に挑む姿勢について話を聞いた。

(取材、文:東憲吾 画像作製:笠原幸乃)

 

超絶技巧はあくまで要素のひとつ。人の心に残る楽曲を作りたい


――まずは今回のプロジェクトが始まった経緯から教えてください。真央樹さんとはどうやって知り合ったんですか?

天平:3年前にNeo Resistance Quartettoという4人組のバンドを立ち上げたんですけど、真央樹はそのメンバーの一人です。結成前にYouTubeで「若手の凄腕ドラマー」って検索したら、真央樹が演奏している動画を見つけて。他のドラマーよりもダントツに上手くて魅力がありました。その後、Facebookで「一緒にバンドやらへん?」ってメッセージを送って、そこからの付き合いですね。今回のプロジェクトは、もともとNeo Resistance Quartettoのライヴの時に二人だけで演奏することがあって、それを見たビクターエンターテインメントの方々に評価いただいて始まったという感じです。

tempei&maoki

左が山本真央樹さん

――“ピアノ&ドラムデュオの究極を目指す”というコンセプトで活動しているそうですが、2つの楽器でこんなにアグレッシヴな音楽を作れるのかと驚きました。

天平:そうですね。僕の楽曲はクラシックの要素が強いので、ベース音やリズム、和声がすでにソロの段階で出来上がっています。ベース音がないと物足りなく感じることもあると思いますけど、楽曲の構成上、ベース音がなくても物足りなくないサウンドになるんです。

――これは色々なジャンルのリスナーに届きそうだと思いました。

天平:基本的にはどんな層にも聴かれてほしいですね。強いて言えば、プログレッシブロックやフュージョン、味の濃いインストゥルメンタルロックを聴く人たちに好まれるかもしれません。ただ、「革命のエチュード」(フレデリック・ショパンの練習曲ハ短調作品10-12)のカバーもやっていたりするので、クラシック畑の人が聴いても「おもしろいな」と感じてもらえるはずです。

――お二人の超絶技巧はもちろんですが、久石譲、坂本龍一といったピアニストのような美しいメインメロディーも持ち味の一つだと思いました。

天平:そこは大事にしていますね。難しいことをしてそれで終わり…みたいな音楽はやりたくない。難解な楽曲構成や超絶技巧だけを見せたいわけではなくて、人の心に残るような楽曲を作りたいんです。それを構成するための要素として技術があるということです。

 

 

アルバムは自分自身のサウンドトラック


――今回の楽曲制作はどのように行われたんですか?

天平:すでに完成している楽曲や、僕のアルバムの収録曲が半分あって、残りが新しく作った楽曲です。今回は最初に全曲のピアノパートを作りました。既存の楽曲はテンポが定まらない部分もあるので、ドラムの入り方を予測しながらテンポを調整したり、アレンジしたりしましたね。

――作業を進める中で苦労したことはありますか?

天平:今回は僕がとても信頼するエンジニアの方にやってもらったり、ビクターの良いスタジオでやらせてもらったり、マネージメントのヴァストミュージックエージェンシーにも良くしてもらったりと、制作チームの環境が最高だったのでレコーディングの苦労はありませんでした。結果、自分の中でかなり満足のいく仕上がりになりましたね。

――レコーディングの点で言うと、先行公開された「火の鳥」のMVが圧巻でした。

天平:あれはテンションを上げるために一発録りしました。カット割なしの映像なので見応えがあると思います。他の楽曲も、緊張感や疾走感を出したいと思いながらレコーディングしました。

 

 

――今作のタイトルは“万華鏡”という意味ですが、これはどういう意図でつけたんですか?

天平:万華鏡の中のように多面的で不規則な動きを見せるけど、そこには不思議で美しい世界観があって、ずっと覗いていたくなる、もっと知りたくなる…そういうアルバムだということですね。変拍子の多い楽曲とか、いろいろなタイプの音楽があると思います。

――表題曲の「kaleidoscope」は一曲のうちに70回以上も拍子が変わるそうで、驚きました。

天平:変拍子だからといって、難しく聴こえないように気をつけました。曲を聴いて「かっこいい」と思いながら「変拍子も入ってたんだ!」と気づくのが上手い使い方ですよね。

――「龍の涙」は今作の中ではあまりないジャズテイストの楽曲ですね。これは児童文学「龍の子太郎」からインスピレーションを得たそうで。

天平:「龍の子太郎」って悲しくて暗いだけの物語ではなくて、ホロっと涙が出る切なさもありますよね。読み終わった後にふとメロディーが浮かんできたので、その時に興味があったジャズサウンドで作曲しました。

――収録曲の中で特にタイトルが気になったのが「火の鳥」です。手塚治虫やイーゴリ・ストラヴィンスキーなど、著名な作家が同名の創作物を出していますが、彼らからの影響はあったんですか?

天平:もちろん自分のオリジナルとして出しているんですけど、影響を受けたとしたら手塚治虫です。彼の描く火の鳥は、時や命、宇宙を司るものですよね。子どもの時に読んでかなり強烈な刺激を受けました。その記憶は今も僕の心に焼き付いています。

――もともと宇宙に興味があったんですか?

天平:はい。宇宙ってすべてが分かると思うんです。色々な世界に宗教があって、その神様たちはどこに繋がっているかというと、宇宙なんですよね。だから本当は神様って一つだし、そう思うと戦争って理不尽だなと感じます。あと、宇宙は生死も知っている。「なんで僕らはここに生を受けたんだろう」とか、「死んだ後はどうなるんだろう」とか、「命はどこに廃棄されてどこに繋がっていくんだろう」とか、そういう疑問の答えは宇宙にあると思います。だから宇宙を知ればすべての謎が解けるんじゃないかって、子どもの頃に強く思っていました。

――「天平さんの楽曲を聴いていると神秘的な情景が思い浮かぶ」と多くのリスナーが語っていますが、そういうアーティスト自身の思想が影響しているのかなと思いました。

天平:アーティストって何者?と言ったら、自分自身を表現する人だと思っています。ファンは音楽そのものだけではなくて、アーティストの人間性や世界観、歴史を見ているんですよね。だから僕は、自分自身のサウンドトラックだと思って楽曲を作っています。どこかで見た情景や、どこかで経た体験を元にしている。リスナーの方が浮かべる情景は僕が見たものと違うかもしれないけど、僕と近い体験をしても不思議ではないなと思います。

――なるほど。では「火の鳥」以外の楽曲も、そうした情景や体験を元につくられているんでしょうか?

天平:そうですね。「君と過ごした夏の幻」は片思いしている時の気持ちを表現した楽曲ですし、「夜行列車」とかは東ヨーロッパを旅したことを思い浮かべて作った楽曲です。国境を越えるために深夜3時〜4時に夜行列車に乗るんですけど、その時に怖そうなでっかいおっさんが入ってきて(笑)、パスポートをチェックするんです。それでようやく次の国に行けたんですよ。その時の色々な気持ちを表現しています。ただ、全曲が体験から生まれたものでもなくて。例えば「ペガサス座標」は活動10周年を記念して作った楽曲なんです。ペガサスは天の帝が乗る馬なんですけど、天近くの遥か高いところを駆けるペガサスのように、僕たちもあの座標(高み)を目指していこう、という意気込みを表現しています。

 

クラシック界の保守層は、もっと外に目を向けてほしい


――収録曲の中では「革命のエチュード」が特に異彩を放っていると思います。原曲とは全く異なるアレンジになっていますね。

天平:僕は歴代のクラシックの素晴らしさをずっと感じているんですけど、今の音楽との大きな違いは“リズム”だと思うんです。時代を追うごとに進化していて、さまざまなパターンが出てきている。もしショパンが現代に生まれていたら違うリズムで書いたはずなんですよ。だから、今この楽曲をアレンジするなら、リズムを取り入れようと思いました。

――クラシックを新しくしていきたい、あるいはクラシック界を盛り上げたいという意識は強いんですか?

天平:別に「クラシックを応援しています」というスタンスではないんです。ちょっと説明しにくいんですけど…やっぱりクラシックって素晴らしいんですよ。もちろんジャンル関係なく音楽って最高ですけど、僕はピアニストだから、アコースティックのルーツであるクラシックの魅力をひしひしと感じているわけです。和声、構成、フレーズ、どこをとっても奥が深い。「革命のエチュード」をアレンジしたのは、こんな素晴らしい楽曲を作ったショパンへの尊敬があったからです。でも、実はそれだけではなくて。これはクラシック界の保守層に向けたものでもあるんです。

――保守層というと?

天平:クラシックのコミュニティって絶大なパワーを持っているのに、少し閉じている印象があるんです。日本は邦楽じゃなくてクラシックを大きくサポートしている。自分たちの国の伝統音楽である邦楽ではなく、なんでクラシックなの?って思う時があります。オーケストラを維持するためにお金を払っている自治体もある。要は何が言いたいかというと、クラシックを聴かない、コンサートに行かない、CDを買わない…そういう人たちが多くても“クラシックはなくならない”んです。サポートするところがいっぱいあるから。でも僕は、そこに安住せず、もっと外へ目を向けてほしいと思っています。他のジャンルにも素晴らしい音楽はたくさんある、しかもそれをクラシックと融合させることだってできる。「例えばこんな新しいクラシックがあるんだよ」って、そういうアプローチをしていきたいですね。

――『kaleidoscope』は「革命のエチュード」だけでなく、他の楽曲でもクラシックを下敷きにした新しい挑戦をしていますよね。まさに天平さんの気持ちが形になった1枚だと思います。

天平:クラシックは新たな先駆者や革命者がいたから存続しているんですよ。ベートーヴェン、ショパン、ラヴェル、ドビュッシー、ラフマニノフ…そういう人たちは各時代の音楽をぶっ壊そうとした。だからこそクラシックは大きく栄えてきたのに、新しい挑戦を排除していくのは衰退につながると思います。チャレンジャーを支援していく動きと、伝統を守る動きのバランスがとれているクラシックは健全なんですよ。いまは少し不健全な気がするので、現代の音楽家や、クラシックの開発を目指す人たちのフィールドがもうちょっと開くといいなと思っています。

――アルバムが出てからクラシック界から反応はありましたか?

天平:まだ出てきていないですね。そんなに「届けよう!」「変えよう!」とは強く思っていなくて(笑)。あくまで僕は“クラシック音楽”への新しいアプローチが目的なので。まあ、自然発生的に反応が広がってくれたらいいなと思います。

 

お客さんがシビれるようなライヴを目指す


――名古屋でのライヴは12月20日CLUB QUATTROで予定されていますが、パフォーマンスで意識している点はありますか?

天平:真央樹と演る時はフィールドの中でバトルしている感じになるので、お客さんは圧倒されるんじゃないかなと思います。

――会場がどんな雰囲気に包まれるか気になりますね。

天平:個人的にはノリノリになってほしい思いはありますが、変拍子が多いのでみんなぐちゃぐちゃになってしまうかもしれませんね(笑)。僕がこういう音楽を聴いた時にはシビれています。昔、ドラマーのデニス・チェンバースのライヴを見た時は体が動かなくて、聴き終わった直後に「ウオーー!!」って叫びました(笑)。そういう現象が起きたらいいなと思います。ちなみに、先日2CELLOSのオープニングアクトで演奏した時はお客さんの反応がかなり良かったんですよ。東京国際フォーラムに5,000人ぐらい集まっていたんですけど、その空間がすごい心地良くて。ゆくゆくはそういうところでやりたいし、できるようになりたいと思いました。

――最後にこれからの活動について教えてください。

天平:実はもう次にやりたいことがたくさんあります。もっとクラシックのカバーをやりたかったり、バッハの有名な3~4曲を1曲にした楽曲を作りたかったり。けっこうアイディアは溜まっているので、今後の活動も注目していただけたらと思います。

 

Tempei and Maoki Live Tour 2017

・2017年12月6日(水) 東京/渋谷CLUB QUATTRO
開場:18時00分/開演19時00分
チケット:自由席6,000円([入場整理番号付]/税込)、 スタンディング4,000円([入場整理番号付]/税込) ※入場時にドリンク代別途必要
問い合わせ:ウドー音楽事務所(03-3402-5999)、渋谷CLUB QUATTRO(03-3477-8750)

・2017年12月18日(月) 大阪/梅田CLUB QUATTRO
開場:18時00分/開演19時00分
チケット:自由席6,000円([入場整理番号付]/税込)、 スタンディング4,000円([入場整理番号付]/税込) ※入場時にドリンク代別途必要
問い合わせ:大阪ウドー音楽事務所(06-6341-4506)、梅田CLUB QUATTRO(06-6311-8111)

・2017年12月20日(水) 愛知/名古屋CLUB QUATTRO
開場:18時00分/開演19時00分
チケット:自由席6,000円([入場整理番号付]/税込)、 スタンディング4,000円([入場整理番号付]/税込) ※入場時にドリンク代別途必要
問い合わせ:名古屋CLUB QUATTRO(052-264-8211)

 

チケットぴあ 中部・北陸

Official Site

http://www.jvcmusic.co.jp/-/Artist/A025805.html

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